鉄の骨を一級建築士が解説|建設業の利益構造と価格競争のリアル

本の感想

本の概要

『鉄の骨』は池井戸潤氏による建設業界を舞台にした企業小説です。

主人公は中堅ゼネコンの若手社員・富島平太。営業担当として公共工事の入札に携わる中で、建設業界に根付く談合問題や企業の利益確保、組織の論理に翻弄されていきます。

建設業界と聞くと現場監督や設計者の仕事をイメージする方が多いと思いますが、本作では営業担当や経営層の視点から建設会社の実態が描かれています。

公共工事の入札制度、ゼネコンの利益構造、建設会社同士の競争など、普段は見えにくい業界の裏側を知ることができる作品です。

建設業に携わる人はもちろん、発注者側として建設工事に関わる人にとっても興味深い内容となっています。

読むべき人

・建設業界に興味がある人

・ゼネコンやサブコンへの就職を考えている人

・公共工事や入札制度について知りたい人

・発注者として建設工事に関わる人

・池井戸潤作品が好きな人

個人の感想

私は発注者側の立場で建設工事に関わることがありますが、小説の中で描かれているような問題が実際にどこまで存在するのかについては正直わかりません。

ただし、一般論として非常に共感できる部分は多くありました。

製造業が建設会社へ工事を依頼する際、複数社から見積もりを取得することがあります。しかし実際には、どの会社も似たような金額、似たような内容の見積もりを提出してくるという話はよく耳にします。

もちろん各社の積算方法は異なりますが、必要な材料や工法がある程度決まっている以上、大きな差が出にくいことも事実です。

そのような環境下で建設会社は価格競争にさらされ続けています。

建設業は一般的に利益率が高い業界ではありません。

大手ゼネコンであっても営業利益率は5%前後で推移することが多く、中小建設会社ではさらに低い水準になることがあります。

その中で近年は資材価格の高騰、人件費の上昇、エネルギー価格の上昇などが続いています。

特に中小企業にとっては、コスト上昇分を価格へ十分転嫁できないケースも多く、利益を確保すること自体が非常に難しくなっています。

その意味で、『鉄の骨』で描かれている利益確保への苦悩は、現在の建設業界にも通じるテーマだと感じました。

では、建設会社はどのように生き残るべきなのでしょうか。

私は大きく二つしか方法はないと思っています。

一つは生産性向上です。

ICT施工やBIM、プレキャスト化、自動化技術などを活用し、より少ない人員と時間で成果を出せる仕組みを構築することです。

もう一つは差別化です。

他社には真似できない技術やノウハウを持ち、「この会社にしか頼めない」と思ってもらうことです。

単純な価格競争に巻き込まれる限り、利益率の改善には限界があります。

一方で、発注者側にも課題があります。

製造業の設備投資においても、建設工事においても、初期投資をどこまで抑えるかは永遠のテーマです。

限られた予算の中で最大の効果を出したいという考えは当然です。

しかし、価格だけを見て発注先を選ぶことが本当に最適解なのかという点は常に考える必要があります。

建設会社には価格交渉への対応だけでなく、技術提案やVE(Value Engineering)提案によって、経済性と機能性を両立させる提案を期待したいところです。

単に安くするのではなく、設計や施工方法を工夫することでコストを下げながら価値を維持する。

そのような提案ができる企業こそ、今後の厳しい競争環境の中でも生き残っていくのではないでしょうか。

『鉄の骨』は談合問題を扱った小説として有名ですが、それ以上に建設業界の利益構造や競争環境を考えさせられる作品でした。

建設業に携わる方はもちろん、発注者側の立場で工事に関わる方にもおすすめできる一冊です。

安く読む方法

『鉄の骨』はAudibleでも配信されています。

通勤時間や移動時間を活用しながら聴くことができるため、忙しい社会人にもおすすめです。

また、池井戸潤作品には『半沢直樹』『下町ロケット』など企業経営をテーマにした作品も多くあります。

ビジネスや経営を楽しみながら学びたい方は、Audibleを活用してまとめて読むのも良いと思います。

おすすめ度

★★★★★(5/5)

こんな人におすすめ

・建設業界で働いている人

・ゼネコンやサブコンへの就職を考えている人

・発注者として工事に関わる人

・建設業の利益構造を知りたい人

・池井戸潤作品が好きな人

建設業界の現実を知るきっかけになるだけでなく、価格競争と付加価値の関係についても考えさせられる名作です。

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